カーボンクレジット(オフセット)は必要なのか?脱炭素社会実現に必要な理由を解説

カーボンクレジット(カーボンオフセット)とは、生態系の保全、二酸化炭素の回収・貯留、風力発電所の建設、森林の植林などのプロジェクトに資金を投資することで、企業が他の場所で排出された二酸化炭素を埋め合わせるものです。米国証券取引委員会(SEC)は2022年3月、カーボクレジットを購入する企業に対し、その出所、コスト、炭素量、プロジェクトの場所など、詳細な情報を提供することを義務付ける規則案を発表し話題を呼びました。多くの議論を呼んだこの規則案は公表から1年半以上にわたって最終決定に向けて修正を重ねています。

しかし、反対派(大手自然保護団体を含む)によれば、オフセットは「詐欺」、「見せかけ」または「グリーンウォッシング」であり、真の気候変動対策から目をそらすものだとして反対している。

カーボンクレジットは単純ではない

カーボンオフセットは私たちにとって壊滅的な地球温暖化を防ぐ強力な選択肢のひとつです。現在、土地利用は地球全体の排出量の4分の1近くを占めていますが、注意深く管理することで、2018年の水準を基準として20年分のCO2を除去できる炭素吸収源になる可能性があります。

一方で、反対派はカーボンクレジットやオフセットは、植林されずに放置された木や、森林保護によってどれだけの炭素が削減されるかという期待を過剰に見積もったベースライン予測など、スキャンダルがつきものだと考えています。

しかしながら、真の問題はカーボンクレジットやオフセットそのものではなく、実現方法にあると言えます。必要なのはオフセットの廃止ではなく、企業が真の成果に投資していることを認識できるような仕組みを設けることです。そうすることで、炭素のダイナミックな市場が形成され、根本的な脱炭素化に近づくことができるようになります。

カーボンクレジットの信頼性を高めることが重要

カーボクレジットの実効性を高めるために必要なことのひとつは、供給サイドの信頼性です。つまりオフセットが偽造されたり、肥大化したりしないように基準を作り、その会計処理が正しく行われるようにすることです。

かつては森林のモニタリング等がまったく行われていなかった時代においては、監査方法として木の周囲を測定しどれだけの炭素が蓄積されているかを把握するために森林全体に外挿するといった面倒なプロセスが必要でした。現在では、測定値を校正するためのフィールドワークに加え、地上や航空機で撮影した地理空間3Dレーザースキャンや衛星データ、機械学習を活用することで、より迅速かつ正確に自然ベースのオフセット・プロジェクトの質と進捗状況を監査することができます。これによって、極めて明確で意味のある多面的な格付けが可能になり、企業のオフセットが気候変動に与える影響の検証を確実にし、優れた活動を行なっているプロジェクト開発者が相応の評価を受けることができるようになります。

もうひとつ重要な点は、需要サイドの信頼性です。

排出事業者は二酸化炭素排出量の削減に関して、どのような主張なら正当な主張 (グリーンクレーム) の範囲内なのか、政府や社会からの圧力が高まるにつれ企業は環境への説明責任を回避できなくなります。実際、SECは2022年3月にも、上場企業は気候変動関連のリスクと温室効果ガス排出量を投資家に開示しなければならないという要件を打ち出しました。近い将来、炭素は企業の財務諸表に記載する項目として避けることはできなくなるはずです。このことは、オフセットと並んで、政策立案者が経済全体として野心的な脱炭素戦略を推進することが不可欠であることを意味します。歓迎すべきは、オフセットがこのプロジェクトの単なる補助的なものではないということです。つまり、明確な価格シグナルを提供し炭素市場をしっかり育成することで、オフセットはイノベーションを触媒として脱炭素を加速させる一助となりうるのです。

現在、炭素市場は世界的にパ、価格は乱高下し正確に状況を把握することは難しいです。しかし、オフセット市場における需要と供給の力学によって、炭素が真の価格を持つ世界を考えてみましょう。適切な商品の取引と同じように、炭素価格が将来どのように変動するかを予測したコスト曲線を作成することができます。つまり、将来のリスクをヘッジし、将来のコストを管理することができるようになるということです。炭素集約型産業であれば、今すぐにでも関心を持つべきことであると言えます。

このアイデアを理解するために、長距離航空用のカーボンフリー・エンジンを製造しようとしている新興企業を例に考えてみましょう。事業を成長させるための投資を得たいのであれば、資金提供者に見返りがあることを証明する必要がありますが、その唯一の方法は、炭素の実質的な価格に基づいて将来の見通しを立てることです。それがなければ、この企業の事業に資金を投入するインセンティブはほとんどありません。しかし、2030年に炭素が航空部門に年間3,000億ドルかかると主張することができれば、その製品の魅力度と説得力は増します。

このように、炭素市場の利益インセンティブと規模拡大は、それを支える検証済みオフセットも含め、地球をネット・ゼロ・カーボンに向かわせる可能性のある基本技術の採用を促進するのに役立つのです。経済的なインセンティブを利用して技術革新をスタートさせることは、道徳的・行動的な大衆の転換を期待するよりもはるかに効果的である可能性が高くなります。

まとめ: カーボンクレジットを全否定するという選択肢はない

オフセットを真っ向から否定するということは、航空業界のような脱炭素化が困難な業界に対して、地球が燃えている間は事実上、手をこまねいていてもいいと言っているに等しいです。しかし、最初の一歩としてオフセットへの投資を奨励するのであれば、少なくとも炭素がバランスシートに計上されることが避けられない未来に慣れさせることができます。

気候変動リスクに関する議論において、気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、人類はカーボンクレジットやオフセットの功罪両方を理解し、実行していく必要があるということです。