近年、企業や組織が社会や行政から野心的な気候変動目標を設定するように強く求められるようになりました。
しかし、明確な実行計画や裏付けのない気候変動対策を主張することは、グリーンウォッシングとして批判を浴びる可能性があり、企業として対応を慎重にならざるを得ないのも事実です。
現在、気候変動に関する主張 (グリーンクレーム) のほとんどは規制されておらず、炭素市場への参加はほとんどのセクターで任意となってます。明確な法的枠組みや定義が定まらず不確実性が高まる中で、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
この記事ではグリーンウォッシュの定義や規制、回避するためにできることについて解説します。
グリーンウォッシングとは何か?
グリーンウォッシング(グリーンウォッシュ)とは、実際には環境へのプラスの影響はないにもかかわらずあたかも環境にプラスの影響を与えると誤解を招くようなマーケティングや宣伝を行うことです。消費者の誤解を招くような広告や過大な主張などがグリーンウォッシングにあたります。
グリーンウォッシングに対する規制
世界では一部の「グリーンウォッシング」行為は、すでに規制の対象となっています。
最近の例としては、米国証券取引委員会 (SEC) が、米国大手銀行の投資部門に対し、その投資ファンドのESGに関連する記載の一部が虚偽だとして150万ドルの罰金を科したことが挙げられます。また英国の金融行動監視機構 (Financial Conduct Authority) は2021年に、金融機関向けにグリーンウォッシングをしないためのガイダンスを発表しました。
さらに、情報開示の要件が厳しくなり、世界的な気候変動目標達成に向けた意欲が高まるにつれ、規制は今後も増えていくことが予想されます。企業は今後、環境への影響および環境負荷を軽減するために講じている施策について、これまでよりも詳細に報告を求められるでしょう。
国際財務報告基準 (IFRS) 財団の下に設立された新しい国際サステナビリティ基準審議会 (ISSB) の活動も注目すべきです。ISSBは、「投資家やその他の資本市場参加者に、企業の持続可能性に関連するリスクと機会に関する情報を提供し、十分な情報に基づいた意思決定を支援するために持続可能性に関連する開示基準の包括的なグローバル・ベースラインを提供する」ことを目的としています。
また、民間企業の気候変動に関する主張 (グリーンクレーム) に対する世論の監視も厳しくなっています。消費者や株主は皆、企業の社会的責任を注視し、宣言通りに環境へ配慮した行動を取るよう圧力を強めています。
さらに企業にとって、今後ますます関心が高まる可能性があるのが訴訟です。グリーンピースなどの環境NGOグループは、誤解を招く広告を禁止する規則に違反するグリーンウォッシング広告を行ったとして大手エネルギー企業に対して訴訟を起こし、当該企業が敗訴する事案がありました。
カーボンクレジットはグリーンウォッシングに当たるのか?
それではカーボンクレジット(カーボンオフセット)はグリーンウォッシングなのでしょうか。
事実としてカーボンクレジットやオフセットはグリーンウォッシングとして批判されることがあります。オフセットのみを用いて自社の温室効果ガス排出量を削減させる企業や、カーボクレジット戦略の透明性を欠く企業はグリーンウォッシング批判を受けるリスクが特に高いと言えます。しかし、カーボンクレジットそのものがグリーンウォッシングなのではなく、以下の2点を考慮することが重要でしょう。ネットゼロ社会の実現を目指す上ではカーボクレジットは重要な役割を担っており、脱炭素社会に不可欠な存在と言えます。
オフセットは、事業の転換を図らず脱炭素活動を回避するための理由に使ってはいけません。例えば、VCMIの実践規範に従うなど、回避・削減・オフセットを組み合わせた広範な戦略の一環として利用されるべきです。
オフセットは、使用するカーボンクレジットに追加性があり削減されたCO2が永続的に大気に再放出されず、合法的で検証可能な炭素会計によって正当化される場合にのみ、気候変動にプラスの影響を与えます。カーボンクレジットを購入する際はカーボンクレジットの信頼性に十分な注意を払う必要があり、カーボンクレジットの使用に関して詳細に透明性をもって報告すべきです。
カーボクレジットには信頼性の低いジャンクカーボンクレジットと呼ばれるものも存在し、世の中に出回ってしまっています。このようなジャンクカーボンクレジットを購入して使用すると、上述の通りグリーンウォッシング批判を受ける恐れがあります。高品質なカーボンクレジットを見分けるためにはカーボクレジットの格付けや詳細なデューデリジェンスレポートを活用するのがよいでしょう。
グリーンウォッシング批判を回避するには
それではグリーンウォッシング批判を回避するにはどうしたらよいのでしょうか。
一つは情報を正確かつ簡潔に開示することです。複数の年度にわたって一貫性と比較可能性をもった方法で環境への影響を開示することで、より多くの人に自社の主張を透明性をもって正確に評価してもらうことができます。
逆にこの情報を開示しない、あるいはできない場合は、何か隠し事をしているか主張を裏付ける事実を持っていないのではないかと疑念をもたれる恐れがあります。規制は日々強化されており、後ろ向きな情報開示姿勢は今後厳しく取り締まられることが予想されます。
したがって、透明性を確保しありのままの実績を開示することこそが、信頼できることを保証する最善の方法であると言えます。