気候変動への取り組みがビジネス界で急速に重要視される中、中小企業も積極的な対応を迫られています。SBT(Science Based Targets)は、その対応の一環として広がりつつある重要な認証です。本記事では、SBT認定の概要や取得のメリット、背景についてわかりやすく解説します。
SBTとは?
SBTは「Science Based Targets」の略称で、「科学的根拠に基づく目標」という意味です。具体的には、企業が温室効果ガスの排出削減目標を科学的根拠に基づいて設定することを指します。この目標は、国際機関であるSBTイニシアティブ(SBTi)が策定した基準に適合していると認定されることで、企業は正式なSBT認定を受けることができます。
この「科学的根拠」とは、2015年にパリ協定で合意された「産業革命前と比べて地球の平均気温上昇を2℃以下、理想的には1.5℃に抑える」という目標に基づいています。企業はSBT認定を通じて、この国際的な温暖化抑制の目標に貢献することが求められます。
中小企業にとっても気候変動対策は他人事ではありません。日本政府は2030年までに2013年度比で温室効果ガスの排出量を46%削減し、2050年までに実質ゼロを達成するという目標を掲げています。この政府方針により、大手企業を中心に温室効果ガス削減目標の設定やSBT認定取得が加速。結果として、サプライチェーン全体での協力が求められる中、中小企業も認定取得を進めるケースが増えてきました。
2024年3月時点で、日本企業のSBT認定取得数は904社で、そのうち704社が中小企業です。このことは中小企業が、大手取引先や市場のニーズに応じて先んじて対応していることを示しています。
中小企業にとって、SBT認定の多額の費用や煩雑な申請手続きは大きな負担です。そこで、中小企業であることを条件に一部の制約を緩和した中小企業版SBTがあります。中小企業版SBTは費用が安くプロセスも簡略化されているため、まず検討してみるのがよいでしょう。
中小企業版SBT認定のメリット
SBT認定は、単なる環境への貢献だけでなく、ビジネスにおいて多くのメリットをもたらします。以下は中小企業にとって特に重要な4つのメリットです。
SBT認定を取得することで、カーボンニュートラルに積極的な取引先へのアピールポイントとなります。取引先である大手企業が自社のCO2削減目標を達成するためには、サプライチェーン全体(Scope 3)での協力が不可欠です。認定取得を公表すれば、信頼性と競争力が高まり、新たなビジネスチャンスの創出につながります。
また、SBT認定を取得した企業は、環境に配慮した経営を行っていると広く認識されます。自社の環境対策を広報戦略に取り入れることで、メディアや顧客からの注目を集め、知名度を向上させることができます。国際的な認証制度であるSBTは、国内外でのビジネス展開を支援する後押しとなる可能性も秘めています。
脱炭素経営を進める過程で、エネルギー使用量の見直しや効率的な運用を行うため、自然と光熱費や燃料費の削減につながります。省エネ対策や改善の積み重ねは、コスト削減と温室効果ガス削減の両方を達成する助けとなります。トリジェンスのCO2削減計画サービスでは、「CO2削減」と「コスト削減」の両面から実現可能な目標・計画を策定しています。
企業全体での脱炭素目標の達成には、社員一人ひとりの協力が不可欠です。SBT認定取得を公表することで、環境に関する社内の意識が高まり、社員の積極的なエネルギー削減の提案や新技術の開発など、イノベーションが促進されることが期待できます。結果として、社員のやりがいが向上し、自然とCO2を削減しつつコストを削減するよいサイクルの醸成につながります。
多くの金融機関が、脱炭素経営を進める企業への融資条件を優遇する取り組みを行っています。SBT認定取得は、金融機関からの低金利ローンや補助金申請で有利になることがあり、企業の持続的な成長を支える財政的支援を得るための一助となります。
中小企業版SBTのデメリット
中小企業がSBT認定を取得することには多くのメリットがありますが、取り組む際に考慮すべきデメリットも存在します。以下では、中小企業がSBT認定に取り組む際に直面する可能性のある課題について説明します。
SBT認定取得には、企業全体での温室効果ガス排出量の把握や削減計画の策定が必要です。これには、データの収集や分析、報告のための人材や技術的なサポートが求められます。多くの中小企業では、人員や資金面でのリソースが限られているため、これらの負担が重く感じられることがあります。
SBT認定を取得した後も、定期的な報告や目標達成の進捗管理が求められます。これには、継続的な改善策の実施やモニタリングが含まれ、経営層や従業員の長期的なコミットメントが必要です。これを怠ると、認定の意義が薄れ、企業イメージに悪影響を及ぼす恐れがあります。
目標を掲げた以上、その達成が期待されます。しかし、市場環境や技術の進展により、目標達成が困難になる場合もあります。目標未達成の場合、企業の信頼性に影響を及ぼし、取引先や投資家からの評価が低下する可能性も考えられます。
SBT認定の取得および維持には、初期費用や外部コンサルタントのサポート費用がかかることがあります。申請には1,250米ドルの手数料が必要になります。コンサルティングを利用して申請する場合はこの手数料に追加して費用がかかるため、中小企業にとってこうしたコストは大きな負担となることがあります。
デメリットを乗り越えるために
これらのデメリットは、中小企業が慎重に計画を立て、適切なサポートを得ることで軽減できます。たとえば、外部専門家との連携や、政府や自治体の補助金を活用することで、費用面の負担を抑えることが可能です。また、社内教育を通じて従業員の理解と協力を深め、リソース不足を補う取り組みも有効です。
SBT認定取得に伴う課題は確かにありますが、それを超えるメリットも多くあります。リスクと対策を理解し、戦略的に進めることで、持続可能な経営の基盤を築くことができるでしょう。
中小企業版SBT取得までのプロセス
中小企業がSBT(Science Based Targets)認定を取得するまでには、いくつかのプロセスがあります。各ステップを正しく理解し、準備を整えることで、スムーズに認定取得を進めることができます。以下は、中小企業がSBT認定を取得するまでの主なプロセスです。
SBT目標を設定するためには、まず自社の温室効果ガス排出量(Scope 1、2)を正確に把握する必要があります。これには、エネルギー使用量や生産工程のデータ収集が含まれ、内部リソースや外部専門家のサポートを活用することが有効です。
SBTi(Science Based Targets initiative)が提供するガイダンスを参考に、科学的根拠に基づいた削減目標を設定します。中小企業版のSBTでは、通常よりも簡略化された要件が設けられており、対象となる範囲や申請の手続きが大手企業に比べて軽減されています。
SBT認定には、削減目標を具体的に示した申請書類の提出が必要です。これには、設定した削減目標の詳細や、達成のための計画が含まれます。ガイダンスに沿って正確な情報を盛り込むことが重要です。
準備した申請書をSBTiに提出すると、専門チームによる審査が行われます。審査プロセスでは、目標の適合性や科学的妥当性が評価され、必要に応じて補足情報や修正が求められることもあります。
審査を通過し、SBTiからの認定を受けると、自社の削減目標が「科学的に根拠がある」として認証されます。これにより、企業はSBTi認定企業として公表され、広報活動やPRに活用できます。
認定取得後は、設定した目標に向けた具体的な削減対策を実行します。エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入、サプライチェーンの見直しなど、実際の削減行動を継続的に実施し、その進捗を定期的にモニタリングします。
企業は、削減目標の達成状況をSBTiや関係者に対して定期的に報告します。これにより、目標達成の進捗を管理し、必要に応じて計画を見直すことで、持続的な改善が促進されます。
プロセスを効率化するためのヒント
中小企業がこれらのプロセスを効率的に進めるためには、社内でのプロジェクトチームの結成や外部コンサルタントの活用が効果的です。また、政府や自治体が提供する補助金や支援プログラムを活用することで、費用負担を軽減し、スムーズに認定取得を進めることができます。トリジェンスでは中小企業版SBTの申請代行を実施しています。一度ご相談ください。
中小企業版SBT認定に向けて
トリジェンスが支援します
結論:SBT認定は中小企業の成長を後押しする
SBT認定は、環境保護だけでなく、企業価値の向上、コスト削減、社員の活性化といった複合的なメリットを提供します。気候変動問題は急速に拡大し続けており、後戻りすることは考えにくいでしょう。むしろ、早めに取り組むことで企業としての競争力を高め、市場での優位性を確保することが可能です。最初の一歩を踏み出し、将来のビジネスチャンスをつかむために、SBT認定取得を検討してみてはいかがでしょうか。