グリーンハッシングとは何か?グリーンウォッシングとの違いを解説

自社の気候変動対策の効果を過大に主張したり公約や行動を誇張し、「グリーンウォッシング」と批判される企業が増え始めました。例えば、実際には製品の中身を改善していないにもかかわらず「地球に優しい」「CO2排出量を削減」などと喧伝することは、見せかけの気候変動対策の「グリーンウォッシュ」です。

最近では、このグリーンウォッシング批判を企業が恐れるあまり、「グリーンハッシング」という新しい概念が生まれました。

この記事では、グリーンハッシングとは何か、なぜ企業はグリーンハッシングするのか、グリーンハッシングがもたらす結果とは何か、グリーンハッシングを避けるにはどうすればよいのかについて説明します。

グリーンハッシングとは何か?

グリーンハッシング(greenhushing)とは、企業が気候変動対策目標やその進捗状況を意図的に公表しないことを意味します。

気候変動が地球規模の課題と認識されてから、企業は自社の取組み目標を設定することが多くなりました。しかし、ここ数年は、本来は環境に良い影響はないにもかかわらず良い影響を与えていると誤解を招くようなマーケティングや宣伝を行うグリーンウォッシングが見られるようになり、世界中で大きな問題となっています。実際、2021年の欧州連合(EU)の調査では、企業による「グリーンクレーム」の半数近くが誇張または虚偽であることが判明しました。

企業の目標がグリーンウォッシュとして批判されることは、社会的な信用を失うだけでなく裁判により多額の賠償金を支払うことになるケースもあります。悪質な誇張表現は取り締まられるべきですが、グリーンウォッシング批判自体が過激になってきた結果、企業は環境目標の設定や取り組みを公表しなくなるケースが見られるようになってきました。これがグリーンハッシングです。英語のhushには「静かにする」という意味があります。

この傾向は、多くの企業が自主的に設定している「科学的根拠に基づく目標」と密接に関連します。

「科学的根拠に基づく目標」とは、パリ協定の目標である「地球温暖化を産業革命前の水準と比べて2℃未満に抑制し、1.5℃に抑制するための努力を追求する」ために必要であると最新の気候科学がみなすものと一致している目標のことを指します。

環境コンサルティング大手のサウスポール社が実施した調査では、調査対象1200社のうち4分の1が、科学的根拠に基づく目標を公表していないことが明らかになりました。つまり、企業内部では独自の目標を設定していても、それを対外的に公表しない選択をしている可能性があるということです。

なぜ企業はグリーンハッシングするのか?

企業がグリーンハッシングを行う理由はいくつかあります。

まず第一に、企業は十分に野心的な目標を設定しなかったり、競合他社に比べて十分な取り組みをしていなかったりすることでメディアなどで非難されることを恐れるケースがあります。

また不十分な気候変動対策していないとみなされることで商品の購入をボイコットされたり排斥されたりすることもあります。

企業に環境負荷の責任を負わせることは良いことですが、進捗状況を共有することを躊躇させ、ネットゼロへの取り組みを開示しない状況を作ることは逆効果になりかねません。以前は、持続可能性について言及することは、一般的に企業にとってポジティブなことでしたが今では反発を招く材料となりうることになります。そのような状況はネットゼロの達成にとって好ましいことではありません。

企業がグリーンハッシュを行うもう一つの理由は、顧客離れにつながる潜在的なリスクを避けるためです。

例えば、ある企業が自社の活動内容が不十分であったり、二酸化炭素排出量を削減するために十分な努力をしていなかったりすることを認識している場合、顧客にサービスや製品を利用してもらえるように、意図的にその情報を隠すことがあります。

もちろん、企業の中には持続可能性への取り組みををどのように社会に伝えればよいかわからないから開示しない場合もあります。

特に、持続可能性への取り組みを始めたばかりで、その取り組みが本当にインパクトを与えているかどうかわからない企業に当てはまります。ネットゼロへの移行は分野横断的に影響があり複雑で、すべての企業が気候変動への対応を一元的に管理し戦略を立てられるわけではありません。

特にカーボンクレジットを使用しオフセットする企業の場合、クレジットの信頼性の問題に直面するため、その使用をどのように開示すべきかわからないことが多いです。 そしてカーボンクレジットの使用について企業が情報開示を控えることで、カーボンクレジットに関する透明性の欠如はさらに助長されてしまいます。

Tolligenceのようにカーボンクレジットの信頼性をデータ分析する会社や格付けをする機関は、カーボンクレジット市場に透明性をもたらすことに貢献しています。

グリーンハッシングをするとどうなるのか?

企業がグリーンハッシングすることは地球規模の環境問題について語らないということであり、その結果気候変動対策は少なくなり、他の企業が行動を起こすきっかけも少なくなってしまいます。

パリ協定に沿って地球温暖化を1.5 °C以下に抑える場合は、官民がそれぞれの役割を果たし、総力を挙げて気候変動対策に取り組む必要があります。企業がこの問題を無視したり、自らの行動を隠したりするのであれば、ネットゼロの達成は不可能です。

またグリーンハッシングもグリーンウォッシング同様に非難の対象になることから企業イメージのダウンも避けられません。

グリーンハッシングを避けるにはどうすればよいか??

企業がグリーンハッシングを避けるには、毎年一貫して説明性のある明確な開示を実施し、主張を容易に評価できるようにすることが最善の方法です。実際、きちんと根拠をもって検証可能な形で公表すれば過度なグリーンウォッシュ批判はされないためグリーンハッシングする必要もなくなります。

ただし、気候変動対策を公表する際には明確な表現を用い、グリーンクレームの正当性を示すことが重要になります。

例えば、「ネットゼロを達成しました」と言う代わりに、この言葉が何を意味するのか、それを達成するためにどのような行動をとったのかを説明することが求められるのです。

そしてカーボンクレジットを用いてカーボンニュートラルを達成しようとしている企業はクレジットの一覧や格付けを活用してより質の高いクレジットを示すことが今後必要になると考えられます。