2024年4月、GXリーグの適格カーボンクレジットの改訂が行われました。そもそも適格クレジットとは何でしょうか。今後ますます注目度が高まるGXリーグにおいて、どのようなカーボンクレジットが使用できるかについて解説します。
GXリーグで適格クレジットとして認められる要件
適格カーボンクレジットはGXリーグの中で企業が超過排出量の相殺に使用できるカーボンクレジットのことです。その要件はいくつかあります。
まず、無条件で適格クレジットとして認められるものを見ていきましょう。
- Jクレジット
- JCMクレジット
これらは、どの方法論で組成されたカーボンクレジットも適格クレジットとしてGXリーグで使用することが可能です。
次に、ボランタリーカーボンクレジットについて解説します。ボランタリークレジットのうち適格クレジットとして認められるためにはいくつかの要件があります。
- プロジェクト実施場所
- プロジェクト実施者
- 方法論
対象のカーボンクレジットが「国内」で実施されているプロジェクトの場合、実施者の条件はありませんが、特定の方法論に基づいて実施される必要があります。「国外」で実施されているプロジェクトについては、方法論の条件に加えて、GXリーグ参画企業・子会社が初期から関与している必要があります。
ここからは、適格カーボンクレジットとして認められているカーボンクレジットの方法論について解説します。現状では、以下の4つの方法論で組成されるボランタリークレジットが適格クレジットとして認められます。
- CCU(Carbon dioxide Capture, Utilization)
二酸化炭素を分離・回収し、利用する技術。 - 沿岸ブルーカーボン
海洋生物によって大気中の炭素が取り込まれ、海域で吸収・貯留される炭素。 - BECCS(Biomass Energy with Carbon Capture and Storage)
バイオマス燃料の燃焼時に発生するCO2を回収し、地下に貯留する技術。 - DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)
大型の専用装置を使って大気中のCO2を分離・回収し、地下に貯留する技術。
CCUとは何か
CCUは、大気中に排出されるCO2を回収し製品やエネルギーに変換する技術を指します。採収されたCO2は、化学製品、プラスチック、コンクリート製造などの用途に再利用されます。
回収技術
CO2の回収技術は大きく分けて、大気中の空気からの直接回収と、化学工場や発電所からの回収に分かれます。工場等からの排ガスはCO2濃度が高いため、回収もしやすいとされています。CO2を回収する主な方法としては、化学吸着法、物理吸着法、メンブレンフィルタ法などがあります。
CCUの課題
CCUの課題としては、CO2の回収・変換過程で大量の電力を必要とすることが挙げられます。大量のエネルギーを使用すればその分コストは上昇し、そのエネルギーを生成する際にもCO2排出があるため、全体としてのCO2削減量が小さくなってしまうのです。今後、本格的な実用化に向けてさらなる研究開発が進められることが期待されます。
沿岸ブルーカーボンとは何か
ブルーカーボンとは、藻場、湿地、マングローブ林といった海洋生態系が吸収し、取り込んだ炭素を指します。これらの生態系は光合成を通じて大気中の二酸化炭素(CO₂)を吸収し、海中や土壌に貯留する役割を果たします。
海洋生態系の中でも、特に沿岸域の藻場は地球全体のCO₂吸収において重要な役割を担っています。海洋は陸上よりも多くのCO₂を吸収し、ブルーカーボン生態系は陸上の森林面積のわずか1.5%に相当する面積しかありませんが、その喪失や劣化によるCO₂排出量は、陸上森林伐採による排出量の8.4%に相当するとされています。
このため、沿岸域の藻場を維持・回復させることは、大気中のCO₂削減につながり、地球環境の保全に寄与する重要な取り組みです。
日本では、コンブやワカメなどの海藻を活用した藻場の保全や拡大がブルーカーボンの主な取り組みとなっています。一方、海外ではマングローブ林が中心となっている国も多いのが特徴です。
海藻は光合成によってCO₂を吸収し、その一部は海底や海水中に炭素として貯留されます。この炭素の長期的な貯留が、ブルーカーボンの仕組みを支えています。
ブルーカーボンの炭素貯留の仕組みを理解するために、陸上の森林が吸収する「グリーンカーボン」と比較してみましょう。
- グリーンカーボン
森林が吸収した炭素は、木材など植物体内に固定されます。しかし、約50年後に伐採されると、それまでに吸収した炭素が再び大気中に放出されます。 - ブルーカーボン
海藻類が吸収した炭素は、直接生体に固定されるわけではなく、土壌や海水中、海底に長期間(数百年~数千年)貯留されるとされています。このため、ブルーカーボンの炭素貯留は持続性が高い特徴を持ちます。
「収穫される海藻が炭素を貯留できるのか?」という疑問があるかもしれません。しかし、ブルーカーボンクレジットは、収穫された海藻自体ではなく、海底や海水中に貯留された炭素量に基づいて認証されます。
炭素貯蔵の測定対象
- 海底土壌
- 海水
- 生態系内の貯留
これらに毎年貯留される炭素量を計測することで、ブルーカーボンクレジットが生まれるのです。
しかし、課題もあります。ブルーカーボンクレジットの創出量を算定する方法は統一されておらず、炭素貯留量を測定するのは非常に困難です。特に、炭素貯留は生態系の種類や時間によって変化し、貯留が一時的なものでなく恒久的なものであることを保証することは困難です。また、ある地域で削減できても他の場所で排出が増えれば、全体として効果が薄れてしまいます。
このような測定上・炭素会計上の課題はあるものの、先進的に取り組んでいる事業者も多くいます。日本においては「Jブルークレジット」として組成・販売されています。詳細についてはこちらの記事をご覧ください。
BECCSとは何か
BECCSとは、生物資源からバイオエネルギーを生産すると同時に、排出されるCO2を回収して地下に貯蔵するプロセスを指します。BECCSは、自然の炭素固定とテクノロジーの合わせ技と言えます。
- 樹木などのバイオマスが収穫され、バイオエネルギーに変換されます。
- 発生したエネルギーを製品製造などの生産工程に利用します。
- その過程で発生するCO2を回収します。
- 回収されたCO2は地下に貯蔵します。
しかし、課題もあります。BECCSは、マイナス・エミッション(CO2を削減するだけでなく大気中から除去すること)技術として認められていますが、実用化には多大な土地、水、資金を必要とします。生物資源を利用するため土地の有効活用という点で様々な業界と競合することや、食料安全保障への懸念など、資源配分をめぐる議論がなされています。環境的便益と経済合理性をバランスさせるべく、今後も研究・政策論争の焦点となることでしょう。
DACCSとは何か
DACCSとは、排出源に関係なく大気からCO2を直接抽出し、地下に貯留するか他の用途に再利用する技術です。CO2濃度の低い大気中からCO2を回収するため、実用化されれば様々な用途で利用できると期待され、世界中に展開できる未来の技術として注目されています。
現在、世界中のスタートアップがDACの商用化・大規模化に向けて研究開発を進めています。その中でもスイスのClimeworks社はDAC装置の大型化を牽引しているスタートアップで、2024年現在、効率と性能を飛躍的に改良した第3世代DAC技術を開発したとしています。CO2除去にかかるコストは、2030年までに400~600米ドル/tCO2としています。
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