CORSIAは国際民間航空機関ICAOによって採択された航空業界のCO2削減制度です。運用が開始された2021年から2035年まで、3つのフェーズに分けて実施される予定で、2024年1月1日から2026年12月31日までが第1フェーズです。この期間中、参加対象国の参加は任意であり、第2フェーズの2027年以降は、全加盟国が参加を義務付けられます。
本記事では、現在進行中のCORSIA第1フェーズについて、カーボンクレジット市場にどのような影響があるのか解説します。
なぜCORSIA第1フェーズを理解する必要があるのか
CORSIAは航空業界以外には関係がないと思われるかもしれませんが、実はCORSIAの動向を追うことはカーボンクレジット市場を理解する上では重要なのです。
CORSIA第1フェーズでは、航空会社は特定の承認を得たカーボンクレジットを購入する必要があります。このカーボンクレジットは高品質であるため、ボランタリーカーボンクレジット市場や他の市場(パリ協定第6条2項)においても需要があり調達競争になるのです。
また、CORSIA適格クレジットはこれまでカーボンクレジットの品質を判断する基準として市場参加者に認識されてきました。例えば、CORSIA適格クレジットはボランタリーカーボンクレジットの評価団体であるICVCMが独自に出している品質認証において、自動的に適格になるなど信頼性が高いと評価されているのです。
つまり、CORSIAの第1フェーズを理解することは、カーボンクレジット市場を理解する上で不可欠なことと言えます。
CORSIA第1フェーズの概要
CORSIAは、2016年に国連の国際民間航空機関(ICAO)によって設立された市場メカニズムで、2019年の排出量の85%を基準とし、国際航空のカーボンニュートラルを実現することを目的としています。年間排出量が10,000トンを超えるすべての航空事業者は、排出量を監視し報告する義務があり、基準を超える排出量に対してカーボンクレジットを購入する必要があります。
第1フェーズは、126か国が参加を表明しており、これらの国々間の国際便においてCORSIAへの準拠が義務付けられます。
第1フェーズでCORSIA準拠する方法とは
航空会社がCORSIAへの準拠を目指す場合、以下の3つの方法があります。
- 運用効率や機材の効率改善
- CORSIA適格排出単位基準を満たすカーボンクレジットの購入
- 持続可能な航空燃料(SAF)の使用拡大
SAFは航空業界の脱炭素化において鍵を握る手段ですが、高コストや技術的課題が存在します。そのため、短期的には、カーボンクレジットが現実的で手頃な選択肢とされています。
CORSIA適格カーボンクレジットとは
CORSIA適格クレジットは、特定の認証機関が発行するカーボンクレジットに限定されています。2024年12月時点では、ACR、ART、CAR、GCC、GS、Verraの6つの認証機関が認められています。しかし、2024年以前までのパイロットフェーズと比べて基準は厳しくなっており、除外されるカーボンクレジットも増えました。たとえば、大規模再生可能エネルギーや炭素回収プロジェクトは不適格とされています。
ICAOの決定の裏付けとなる資料がないため、どのような選定基準で選ばれたのか詳細は不明です。ただ、森林由来のものや再生可能エネルギーが除外されたことで、CORSIA適格クレジットの供給に影響が出るとの懸念があります。
現在承認されている認証機関に加えて、2025年3月には部分的に承認されている認証機関等が再度審査されます。日本のJクレジットはCORSIA適格を申請しましたが、不適合となっています。Jクレジットを含めて、今後再審査を経てCORSIA適格クレジットを発行できる認証機関が増えれば、CORSIA第1フェーズで使用可能な方法論やカーボンクレジットが増えて選択肢が広がることでしょう。
適格クレジットの供給状況と今後のCORSIAの見通し
2024年11月にCOP29でパリ協定第6条2項のルールブックが最終決定され、CORSIAを含むカーボンクレジットを使用することを各国政府が認めていく流れになる可能性があります。しかし、2024-2026年の需要予測では6500万~2億tCO2のカーボンクレジットが必要であるのに対し、現時点で完全にCORSIA適格とされたクレジットは450万にとどまっています。
航空会社は 2028年1月31日までに第1フェーズの要件を満たす必要があります。同時に、航空会社以外の企業がCORSIA適格クレジットをカーボンクレジットの品質基準として採用しているため、早期にCORSIA 適格クレジットが創出・流通することが重要になります。供給が不足すれば、CORSIA 適格クレジットの需要はさらに高まり、コストはますます上昇することも考えられます。
CORSIAがうまく機能していくためには、参加国による国内での政策も重要になってきます。現在、126カ国がCORSIA に参加しており、EUに加え、6カ国(ブラジル、韓国、カナダ、日本、ニュージーランド、英国)だけが、自国管轄内の航空会社に対してCORSIAを施行する措置を講じています。強制力がなければ、航空会社が CORSIAを遵守するインセンティブは乏しく、適格クレジットが創出されたとしても活用されない恐れがあります。
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