2024年12月、カーボンクレジット取引プラットフォーム「Nori」が7年間の事業運営を経て正式に閉鎖を発表しました。この動きは、2024年のカーボンクレジット分野におけるスタートアップの難しさを象徴する出来事として注目を集めています。2024年6月には、海洋炭素除去スタートアップ「Running Tide」も閉鎖しており、炭素除去の分野における課題が浮き彫りになっています。
閉鎖を知らせるニュースは瞬く間に拡散されました。
Noriとはどんなスタートアップだったのか
Noriは2017年に創業され、大気中の炭素を除去する農業者と、排出削減を目指す企業や個人を結びつけるプラットフォームを提供していました。Noriの独自性は、「リジェネラティブトン(Regenerative Tonne)」と呼ばれるカーボンクレジットにありました。このクレジットは、農業者が持続可能な農業手法で1トンのCO2を吸収・蓄積したことを証明するもので、少なくとも10年間の除去を保証する仕組みです。ブロックチェーン技術を使っており、リジェネラティブトン(過去にはNRTと呼称)を売買することで流動性を高める工夫をしていました。
Noriはすでに多くの投資家と農業従事者(参加者)を集めていました。
- 資金調達: 総額1,725万ドル(約26億円)を調達
支援農地: 40万エーカー以上
従業員数: 最大で40人
2024年には年間70万トンのCO2を除去し、650万ドル(約10億円)を農家に還元する計画を掲げていました。それだけに、Noriの閉鎖は衝撃的な出来事として受け止められています。
閉鎖の背景
Noriの閉鎖の背景には、以下の課題が挙げられます。
- 需要の停滞: ボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)は、依然として需要が伸び悩んでいます。一部の大企業(例:Microsoft)を除き、クレジットを購入する顧客層が広がらず、スタートアップのスケールが困難でした。
- 資金調達の難航: 総額1,725万ドルを調達していたものの、成長には不十分でした。環境スタートアップ分野における投資家は、特にカーボンクレジット市場に対して慎重な姿勢を示しており、投資リターンの不確実性が障壁となっています。一部の投資家は環境課題へのソリューションとしてのソフトウェアビジネスに懐疑的で、代わりにディープテックやハードウェア分野への投資を好む傾向があります。
- 規制の不確実性: カーボンクレジット市場は政府の政策や規制に大きく依存していますが、その枠組みは依然として未成熟です。規制が整わない中、多くの企業が投資をためらう状況が続いています。
投資家の間では、気候技術分野への期待が高まる一方で、収益化の難しさがリスクと見なされています。Running TideやNoriの閉鎖は、投資家の信頼を揺るがし、特にスタートアップが資金を調達する際のハードルを高める結果となっています。
カーボンクレジット業界への影響
Noriの閉鎖は、カーボンクレジット市場全体に影響を及ぼす可能性があります。
- 市場成長の停滞: 2035年までに1,000億ドル規模に成長すると予測されるカーボンクレジット市場ですが、成長のペースが期待を下回っている現状が明らかになりました。
- 目標未達リスク: 炭素除去は地球温暖化防止に不可欠とされていますが、Noriのような企業の閉鎖は、持続可能な解決策をスケールする難しさを示しています。
- 投資家の信頼低下: 注目度の高かったスタートアップの失敗は、環境分野への投資全体に不安をもたらしています。一部の投資家は環境全般ではなく、より選別して特定の業種に投資を進める動きに転じています。
- 透明性と信頼性への懸念: Noriの閉鎖は、カーボンクレジットの透明性や実効性への疑念を再燃させる恐れがあります。業界全体が信頼を取り戻すために正念場を迎えているといえるでしょう。
今後の展望
Noriの共同創業者アレクサンドラ・ゲラ氏は、次世代の環境系起業家に向けて以下のように語っています。
「私たちの成功と失敗から学び、グローバル課題である炭素除去に対してがんばってください。市場には課題が山積していますが、その使命は終わるものではありません。」
カーボンクレジット市場は依然として成長の可能性を秘めていますが、その道のりは平坦ではありません。Noriの閉鎖が示すように、カーボンクレジット分野における成功には、市場の成熟、規制の整備、そして投資家との信頼構築が不可欠です。業界全体がこの課題を乗り越えるため、新たな戦略とイノベーションが求められています。
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