2030年まで5年となった今年(2025年)はカーボンクレジット市場にとってどのような年になるのでしょうか。昨年はCOP29を経て、様々な重要イベントがありました。2025年2月には、パリ協定に基づいて世界の国々が5年ごとに提出する温室効果ガス排出量削減目標であるNDC(国が決定する貢献)の提出があります。国の排出削減に向けた施策の中でカーボンクレジットの果たす役目は今後も注目されるところです。
本記事では、2025年のカーボンクレジット市場の見通しと主要な課題を詳しく解説します。
カーボンクレジット市場の近年の動向および2025年の見通し
需要と価格は低迷傾向。2025年もマクロトレンドは不変か
世界のカーボンクレジット市場では需要が急増する年もありましたが、近年では需要の伸びは横ばいまたは減少傾向にあります。特に排出回避型クレジットの需要が減少しており、例えば再生可能エネルギープロジェクトやメタン削減プロジェクトは他のカーボンクレジットと比較して品質が劣後しているとして忌避されています。
この傾向は2025年も続き、排出回避カーボンクレジットの価格は現状維持かそれ以下となる見込みです。再生可能エネルギープロジェクトの多くがあるインドでは2023年に環境・森林・気候変動省がパリ協定第6条2項の取引から再生可能エネルギー由来のカーボンクレジットを除外すると決定しているため、排出回避カーボンクレジットは徐々に市場から淘汰されていく可能性があります。
戦略的活用を見据えて高品質クレジット利用に軸足が変わるか
それでは、カーボンクレジットの需要がすべて低下していくかというとそうではありません。戦略的にカーボンクレジットを活用する方針の企業ほど品質を重視して調達していくと想定され、市場では様々な評価機関がカーボンクレジットの評価を進めています。
高品質クレジットへについては需要は増大しており、現在のサプライチェーンではそれを満たせないという問題が発生しています。高品質カーボンクレジットに限っては新規投資が増えていますが、足元での供給量は圧倒的に不足しており、しばらくは解消されない見通しです。つまり、長期的にはカーボンクレジット市場は需要過多・供給不足となり、高品質カーボンクレジットの争奪戦が繰り広げられる可能性があります。
コア・カーボン原則(CCP)の動向
高品質なカーボンクレジットを保証する国際的な基準として世界的に認知されているものの一つがICVCMのコア・カーボン原則(CCP)です。2024年のカーボンクレジット取引量は活発とは言い難いものでしたが、2025年はCCPの注目度はますます高まることが想定されます。
ICVCMでは長らく高品質カーボンクレジットの定義について議論されてきました。そして2024年に高品質なカーボンクレジットを保証するCCPラベルの付与が始まりまり、ガスの埋立によるカーボンクレジットにCCPラベルが付与されました。一方で、再生可能エネルギー由来のカーボンクレジットについては「追加性」の観点からCCPラベルを付与しない決定がなされています。追加性についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
CCPラベルが付与されたガス埋立由来カーボンクレジットの価格は、2024年の1年間で約2割ほど上昇し500円/tCO2程度となりました。しかし、取引量はCCPラベルの付与前後でさほど変化しませんでした。CCPラベルによる価格プレミアム(市場平均価格との差分)が生まれるためには、CCPの認知度が高まることや各国の規制強化等でCCPラベル付クレジットを企業が受け入れやすい環境が整うことなどが必要であり、価格プレミアムは2025年内ではなく今後数年かけて生じてくるものと期待されます。
CORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム)の動向
CORSIA(国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム)は、2024年に第1フェーズを開始しました。この期間中、対象となる航空会社は排出量をオフセットするためのカーボンクレジットを購入する義務を負います。
2025年以降、これらの需要は急速に増大する見込みであり、2027年には1億トンを超えるクレジットが必要になる見込みです。
しかし、CORSIAに適合するクレジットの供給は供給側がかなり限定されている点は世界的な懸念事項となっています。ICAO(国際民間航空機関)は現状2つのカーボンクレジット認証のみ認めている状況で、認証機関がどの程度増加するかによって需給バランスに大きな影響を与えることになります。
また、ICAOは2024年12月、大規模な再生可能エネルギープロジェクトはCORSIA対象外と発表し、15MW以下のプロジェクトのみが対象となったことで供給不足を深刻化させる懸念が再浮上しています。再生可能エネルギーの大半は発展途上国の多いアジアに集中しており、CORSIAの要件強化への対応が迫られそうです。
GXリーグの動向
GXリーグは、日本のカーボンニュートラル達成に向けた取り組みの一環として設立された枠組みで、排出量取引制度の試行と本格運用を目的としています。この制度は、2023年度から2025年度までの第1フェーズを試行期間とし、2026年度からの第2フェーズで本格稼働する予定です。
第1フェーズ(2023年度~2025年度)
- 自主参加型制度
参加企業は自主的に参加し、削減目標の設定や達成も自主努力に委ねられています。 - 企業の分類
Group G: 2021年度の国内直接排出量が10万t-CO2e以上の企業。
Group X: 同排出量が10万t-CO2e未満の企業。 - 超過削減枠の創出要件
超過削減枠を創出・売却するためには、以下の条件を満たす必要があります: 実排出量が国の削減目標(NDC)に基づく基準以下であること。
実排出量が制度開始前の排出実績を下回ること。
第2フェーズ(2026年度以降)
企業の参加率向上を目指し、以下の点が検討されています
- 一定規模以上の排出を行う企業の参加義務化
- 削減目標に対する民間第三者認証制度の導入
- 目標達成に向けた規律強化(指導監督、遵守義務など)
- 国際動向を踏まえた制度の進化やさらなる発展
2024年は様々な法的課題検討・制度設計が進展
2024年はGXリーグの制度詳細が活発に議論されました。具体的には、経済産業省と環境省の共催で「GX実現に向けた排出量取引制度の検討に資する法的課題研究会」が設置され、韓国での事例(異議申立てや訴訟の発生)なども参考に、日本での法体系に適した整理が進められました。
また、2024年9月には内閣官房に「GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ」が設立され、具体的な制度設計の検討が行われています。初回会合では第1フェーズの実施状況を踏まえ、義務化の対象範囲や削減目標の設定方法、企業の予見性確保策について議論が深められました。
政府は「成長志向型カーボンプライシング」と銘打って企業の排出量削減を促しています。今後もGXリーグについては2026年の第2フェーズに向けた議論も進んでいくため、最新の動向をキャッチアップしましょう。
最新動向を把握し、カーボンクレジット市場への理解を高めよう
私たちトリジェンスは、カーボンクレジット情報分析機関です。カーボンクレジット市場の透明性を高めるべく、カーボンクレジットの品質比較サービスや新規事業創出に向けたご支援をしています。中でも、Tolligence DBは法人のお客様が使えるカーボンクレジットの情報収集プラットフォームです。
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